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阿倍野区医師会学術講演:求められる感染制御~地域で考える抗菌剤適正使用~

演題 「求められる感染制御」~地域で考える抗菌剤適正使用~

演者 大阪市立大学大学院医学研究科 臨床感染制御学  教授 掛屋 弘 先生

座長として参加しました。私の理解できた内容をまとめてみました。 

薬剤耐性(Antimicrobial Resistance: AMR)について

ペニシリンの発見者であるアレクサンダー・フレミングは、1945年にノーべル賞受賞スピーチの中で既に病原体が変化して抗生物質・抗菌薬が効かなくなる薬物耐性菌:AMRの問題を指摘していた。これを放置すると、2050年には全世界で年間1,000万人が薬剤耐性菌により死亡すると推定されている。これはがんの死亡率よりも高い。

薬剤耐性の獲得機序は大阪市立大学 大学院医学研究科細菌学講座のバイキンズ®シアターで分かりやすく紹介されている。

 

抗微生物薬を適正に使用しなければ、将来的に感染症を治療する際に有効な抗菌薬が存在しないという事態になる。限りある資源である抗菌薬を適正に使用することで AMR対策を行うことが必要。

微生物薬適正使用の手引き

そこで平成28年4月5日にAMR対策アクションプランが策定され、医療者・患者に対し抗生剤の適正使用を啓蒙するために、平成29年6月1日に抗微生物薬適正使用の手引きが公表された。現在は第二版が発行されている→こちら

 

大半の上気道症状、消化器症状はウイルスによるものであるため、抗菌剤を使用しなくても自然経過で改善する可能性が高い。その判断方法を抗微生物薬適正使用の手引きをベースに概説。また、抗生剤を使用しないことにより、患者さんも不安を感じることもあるが、「なぜ処方されないのか、症状はどのくらいで改善するのか」など、具体的な説明を行うことで患者さんの不安を解消することが重要。

 

一方で、抗生剤が必要と判断される場合には、必要十分な抗生剤投与を行うことが重要であることも強調されていました。多くの迅速診断キットがあるため、その特徴を理解したうえで利用することで感染症の診断精度を高めることができる。開業医の環境では難しいかもしれないが、グラム染色を導入することでより適切な抗生剤投与を行うための有用な情報を得ることができる。開業医でグラム染色を取り入れている例として第一回薬剤耐性対策普及啓発活動表彰で厚生労働大臣賞を受賞されたまえだ耳鼻咽喉科クリニックの取り組みを紹介。その取り組みはこちら

感想

当院でも感染症に関しては、積極的に迅速検査キットを導入し、問診や身体所見も参考に、できるだけ細菌性かウイルス性かを見極めたうえで抗生剤投与を行うように心がけています。以前からグラム染色の導入も検討し続けていますが、①染色に要する時間、②染色するための人手、③顕微鏡所見を判断するスキル、④顕微鏡導入コストなどのため、何度も断念していました。今回のご講演で、まえだ耳鼻咽喉科クリニックの取り組みや、大阪市立大学の先生方が染色に関する教育的なセッションを多数開催されていることも知りました。グラム染色を導入したいと改めて強く感じました。