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阿倍野区医師会学術講演:インフルエンザ関連のトピックス

演題 「インフルエンザ関連のトピックス」

演者 大阪市立大学大学院医学研究科 臨床感染制御学  教授 掛屋 弘 先生

座長として参加しました。私の理解できた内容をまとめてみました。 

インフルエンザウイルスについて

インフルエンザウイルスは、主に冬に流行するA型・B型と、症状が軽度なC型に分類される。近年たびたび流行しているのが、A型ではAH3N2とAH1pdm09。AH1pdm09は、2009年に新型インフルエンザとして大流行し、現在は季節性インフルエンザウイルスとして扱われている。pdmはパンデミックを意味する。AH3N2型は、一般に「A香港型」と呼ばれ、1968年に世界的大流行を起こした。流行するウイルスの割合はその年ごとや地域によって異なる。インフルエンザは基本的にはself-limiting(:自然軽快する)な感染症ではあるが、AH1では原発性肺炎や脳炎のリスクがあり、AH3では高齢者の続発性肺炎の合併リスクがある。また一般的にA型は症状が重く、B型は軽い印象があるが、実際には10歳以上の入院症例はB型の方がA型よりも多いので油断しないようにとのこと。

インフルエンザの診断・ウイルス排泄量について

インフルエンザの診断はその症状が多彩であることから、症状のみでの診断は困難。インフルエンザ迅速キットの診断精度が向上し、非常に軽症例でもインフルエンザと診断されることがある。一般的には、ウイルス排出は潜伏期から始まり、発症から1~2日にピークがある。その後、1週間ほどかけて消失する。臨床症状の激しさとウイルス排泄量はよく相関する。感染状態にある患者の通常の呼吸でも一定量のウイルスが含まれている。無症候性の場合でもウイルス排出があるとする説もあるが、感染性などのについての情報量は十分ではない。 

抗インフルエンザ薬について

抗インフルエンザ薬の効果を最大限に得るためには、発症から48時間以内に使用することが推奨されている。ウイルスが完全に増殖しきる前に使用することで、一般的に発熱の期間が1~2日間短縮され、ウイルスの排出量も減少する。ただし、発症後48時間以上経過した場合でも、強い症状が持続する場合は抗インフルエンザ薬の効果があると考えらており、個別に判断が必要。

インフルエンザワクチンについて

現在のインフルエンザワクチンは、A型2種類とB型2種類をカバーしている。しかし、ウイルスは毎年のように小さな変異を繰り返すため、100%予防することは難しい。ワクチンの効果については、自然界でのウイルス変異以外にもワクチン製造過程でのウイルス抗原変化も問題になる。日本ではインフルエンザワクチンを鶏卵から作成しているが、AH3では、鶏卵での増殖能獲得(鶏卵馴化)に伴い、元株からの抗原性変化が生じてしまう。そのため、ワクチン抗原と流行株の抗原性が一致しない現象が生じる。それでもインフルエンザワクチンの発症予防効果は一般的に4~6割程度、重症化予防効果が7~8割程度と言われている。(予防効果の評価法も解説されていましたここでは割愛)

日本で採用されているインフルエンザワクチンは、皮下注射タイプだが、海外ではすでに鼻にスプレーするだけで、インフルエンザの感染を防ぐ経鼻ワクチンが導入されている。米国では毒性を弱めたウイルスを鼻に噴射する生ワクチン「フルミスト」が販売されている。しかし、発熱などの副作用が出る場合もあり、乳幼児や高齢者は使えない。一方で日本でも経鼻ワクチンの開発が進んでいるが、こちらは不活化ワクチンであるため、より安全性が高いかもしれない。国産の経鼻不活化ワクチンを阪大微生物病研究会が臨床試験を経て、近いうちに国へ承認申請する方針とのこと。スプレー容器に入ったワクチンを複数回鼻腔に噴射するとで抗体がつく。

ゾフルーザについて

日本感染症学会や日本小児科学会が、12歳未満の小児へのゾフルーザの使用について「低感受性株の出現頻度が高いことを考慮し、慎重に投与を検討する」 という声明を出している背景について説明。  ゾフルーザは、1回経口投与やウイルス減少効果の早さが評価され一気に普及した。その一方で、薬剤感受性低下の原因となるI38変異ウイルスが低年齢小児患者から高い頻度で検出された。この変異株の出現頻度は、成人・青少年、小児ともにA/H3N2型で高かったとのこと。また、I38変異ウイルスが服薬前のウイルス抗体価の低い患者から高頻度で検出されたことから、低年齢小児患者での免疫機能の未成熟が影響している可能性があるとのこと。

感想

同じインフルエンザA型であっても臨床像や薬剤耐性化などに特徴があるとのことで勉強になりました。タミフルもAH1pdm09での耐性化が報告されています。ゾフルーザの耐性化問題も、本質的には国を挙げて取り組んでいる薬剤耐性(AMR)対策と同じで、適切に薬剤を使用することで貴重な医療資源を守る事が大切だと感じています。当院では、昨年度はゾフルーザをほとんど使用しませんでした。耐性化する可能性がすでに指摘されていたので、高度機関での使用経験を踏まえたいと考えていました。本年はその特徴も多少わかってきたようですので、適切な患者さんにはむしろゾフルーザの投与も検討しようと思います。

 

インフルエンザワクチンに関しては、WHOの見解や厚生省の推奨など、いろいろ違いはありますが、回数・量はともかく接種する方がメリットが大きいのだろうと思います。迅速検査を行うようになり、これまで学んできたインフルエンザの臨床像とは大きく異なる症例に頻繁に遭遇するようになりました。極めて軽症なインフルエンザ感染者がいます。こういった症例の感染時期を特定することは難しい上に、本当に抗インフルエンザ薬を投与すべきか判断に悩みます。公衆衛生的な観点からは投与すべきですが、自然軽快する可能性が高い個人という点からはあえて投与する必要はないということになります。無症状のインフルエンザ感染者が感染源になりうる場合、病院を受診されることもないでしょうから、そういう感染源から身を守るためには、もはやはワクチン接種しか対策になりえるものはあり得ません。

 

「インフルエンザが流行するので早めにワクチンを接種しましょう」と毎年報道されますが、需要と供給のバランスが悪く、過去2年間は皆様に何かとご迷惑をおかけして申し訳なかったのですが、本年は比較的供給が安定してるので過去2年よりはスムーズに接種業務が進んでいます。また、定期通院いただいている皆様にもいろいろご協力いただきありがたく思っています。

 

この数年はインフルエンザワクチンの需要が増えており、報道とは違って当院では供給が追い付いていない状態だったので、昨年まではワクチンの輸入も検討していました。欧米ではインフルエンザワクチンの種類が多くあり、その中でも経鼻インフルエンザワクチン「フルミスト」に興味を持ち、いろいろと情報を集めていました。

 

そういう状況で、臨床試験段階にある国産の不活化経鼻ワクチンがあると知って驚きました。無事に承認されれば、数年後に痛みを伴う注射をしなくても、インフルエンザを予防できる時代が来る可能性があり、不活化ワクチンなら高齢者や乳幼児にも安全に使える可能性もあるため、期待したいです。