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第43回大阪府医師会医学会総会

特別講演:喘息治療~過去・現在・未来~

演者:近畿大学病院 病院長 近畿大学医学部 呼吸器アレルギー内科 主任教授 東田 有智 先生

医学会評議員会に参加後に講演会に出席しました。

 

【気管支喘息診療の歴史】

19 世紀前半に、気管支の収縮が血管平滑筋への迷走神経刺激によって生じることが解明される。

1930年ごろに、アドレナリン吸入療法の有効性が報告された。

1950 年ごろに、コーチゾンを筋注の有効性が報告された。

1951 年には、喘息治療に初めてコーチゾンエアロゾルが使用された。

1990 年代に、喘息は気道の慢性炎症性疾患という概念が確立

1993 年に、日本における喘息治療・管理ガイドライン初版が発行:吸入ステロイド薬(ICS)が長期管理治療の第一選択に

2000年初頭に、アレルギーの概念が確立され、喘息の病態にヒスタミン、ロイコトルエンが関与していることが証明された。

2012 年に、ヒト化抗ヒト IgE モノクローナル抗体の皮下注製剤が承認

2015年に、重症喘息に対する非薬物療法である気管支サーモプラスティ治療が承認

2016年以降、IL-4,IL-5,IL-13 などを標的とする生物学的製剤が次々に承認される。

 

気管支喘息には診断基準はなく、診断の目安がある。

目安は、

①発作性の呼吸困難、喘鳴、咳、胸苦しさなどの症状の反復、②可逆性の気流制限、③他の心肺疾患などの除外。

過去の救急外来受診歴や、喘息治療薬による症状の改善は診断の参考になる。

患者さんの訴える喘鳴は診断の参考にならない。

喀痰・末梢血液中の好酸球の増多、呼気一酸化窒素(NO)濃度上昇、気道過敏性試験など参考になるものも多いが、一般診療では実施は難しいだろう。判断に悩む場合は速やかに専門医に紹介

 

【気管支サーモプラスティ治療】:

重症喘息で肥厚した気道平滑筋に対して、気管支鏡下で専用のカテーテルを気管支に挿入し、気道壁平滑筋を焼却して減少させる。生涯に1回のみ施行可能、3回の入院が必要。その効果が5年間継続することが報告されている。

 

【生物学的製剤】:

抗IgE抗体医薬はアレルギー性喘息の原因であるIgEに結合し、アレルギー反応を抑える薬剤。

抗IL-5抗体、抗IL-5受容体α抗体医薬は、気道炎症を引き起こす好酸球を減らすことで好酸球性喘息に有効。

抗IL-4/13受容体抗体医薬は、関連するシグナル伝達を阻害することで2型炎症反応を抑制することで効果を発揮

中でも好抗IL-5受容体α抗体医薬は好酸球をほぼ完全に除去するほどの効果がある。

  • 難治性の気管支喘息に関しては現在のICS+LABA:吸入治療がしっかり実践できてるかを確認することが肝要で、すぐに新しい高額医療に飛びつくのではなく、これまでの診断・治療を見直し、効率の良い医療をこころがけるようにとのメッセージがありました。
  • 症例提示も交えた喘息治療の歴史についての概説も興味深く、勉強になりました。父が生まれたころにICSの基礎が築かれ、私が医学部を卒業したころに、ICSが標準治療になったとのこと。そして私の卒後20年で分子生物学・免疫学的な知識の急激な集積で一気に喘息治療が変化したことを実感しました。
  • どの医療分野も進歩は著しく、一般開業医がその詳細をフォローするのは困難になっているように感じています。ただ、診断・治療の大きな流れをつかむ必要はあります。診断・治療に関してどういう利点と欠点があるのか、概要を知っておくことでより専門性の高い医療を必要に応じて患者さんに案内できるようにしていきたいと思います。