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阿倍野区医師会学術講演:脂質異常症治療におけるTG管理の意義

演題 脂質異常症治療におけるTG管理の意義

演者 神戸大学大学院 立証検査医学 循環器内科 特命准教授 杜 隆嗣先生

 

  • コレステロールは三大栄養素(糖質・タンパク質・脂質)のひとつである脂質に属し、細胞増殖やホルモン合成など、生体維持に重要な役割を果たしている。コレステロールは、小腸で食事から体内に取り込まれる以外にも、肝臓で生成され、血液を介して全身に輸送される。しかし、コレステロールは、親水性なので血液に溶け込むことができない。そのため親水性のあるアポタンパクと結合し、リポタンパク(コレステロール+アポタンパク)となって血液中を移動する。リポタンパクはカイロミクロン、VLDL、IDL、LDL: Low Density Lipoprotein、HDL:High Density Lipoprotein と、その分子量によって5種類に分類されている
  • 健康診断でもよく登場するLDLとHDLの2つのリポタンパクはコレステロールを運ぶことに関してはまったく逆の働きをしている。HDLは、血管壁からコレステロールを取りこみ、肝臓に運ぶ。一方でLDLは、肝臓から全身の細胞にコレステロールを運ぶ。体内のコレステロール量が多いと、LDLが全身の細胞にコレステロールを過剰に供給してしまう。特にコレステロールが血管壁に蓄積すると動脈硬化の原因となると考えられてきた。それゆえ、LDLは悪玉、HDLは善玉と表現されている。
  • LDL自体は生体維持に不可欠な存在であるため、悪玉という名称はふさわしくないのかもしれない。近年の研究ではLDLの量よりも質が重要ではないかと考えられている。特に動脈硬化に関連が強いとされるのが、LDLの中でも酸化変性LDLである。正常なサイズのLDLよりも血管の中を長く漂う性質を持ち、酸化されやすいと考えられているsmall dense LDL:sdLDLは酸化変性LDLの供給源の一つとして以前から注目されている。現在、汎用性の高いsdLDLの測定法の開発が進んでいるとのこと。
  • またHDLに関しても善玉として期待されている機能を必ずしも持っているわけではないことが、基礎研究や臨床研究から明らかになっている。特にCETP阻害薬でHDLの血中濃度が上昇しても心血管イベントを減らすことができなかったため、HDLもLDLと同様に量ではなく質・機能を評価することが重要と考えられている。杜先生はHDL機能評価系を開発しているとのこと。肥満や糖尿病、タバコなどによりHDLのコレステロール取り込み機能が低下すると考えられている。神戸大学循環器内科:循環代謝グループの研究プロジェクト
  • その他、中性脂肪にフィブラート製剤で介入することでLDLに質に介入できる可能性があること、家族性の脂質異常症の診断方法、食後高脂血症、コレステロール摂取に関する話題など、実地臨床に役立つ内容を幅広く取り上げていただきました。